ただ黙って綺麗にしてくれるモノが、美しくないわけないでしょ。

コラム

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Illustrated byNo048【佐伯朋子】

 

テレビを見ていたら、清掃員の方を特集した番組がやっていました。
長年、清掃員として働いてきたこの男性は、
プライベートの時間を使って、絵を描いていました。

 

その絵の多くは、清掃用具の絵でした。
男性はこう言います。

 

「人間はね、あれこれ不満を言いますけどね、道具は何も言わない。
汚れたところを、ただ黙って綺麗にしてくれる。
そんなモノが美しくないわけないでしょ」

 

その台詞の後に映しだされた、男性の清掃用具の絵は、
線が力強くて、太くて、濃くて。
モップの毛先から染み出す水は、誇りと忍耐を兼ね備えているように見えました。
「私は、裏方じゃけ。でも、この場所が少しでも良くなるように願っとります」
男性の言葉は、男性の描いたモップの言葉のようでした。

 

そして、7つ年下の、この男性の奥さんの言葉も、また印象的でした。
奥さんは、看護師さんで稼ぎもよかったのですが、
33歳の時、自分よりもお給料の低い、この男性と結婚し、仕事を一時辞めました。
(現在復職中)

 

「結婚の際、周囲の反対はなかったのですか?」
のインタビューアーの問いに、てきぱきと、淡々と。
「すごく誠実だったんですよね。お金は確かに大事ですけどね、でも、人生それだけじゃないじゃないですか」

 

芸術家肌の綺麗な感性のこの男性も素敵だけど、
全部理解して、大切なものを見極め、生活を支える奥さんが、また凄い。
気持ちがいいくらいに、潔い。

 

テレビを見終えたら、自分の生活のなかにも、
キラキラしたものがたくさん潜んでいる事を知るのでした。

大切なのは、「何を感じるか」

 

同じものを見ていても、何を感じるかは、
本当に人それぞれ。
だって、私がもし、今清掃員になったとしたら、
モップに美しさを感じるどころか、ぶつくさ文句を言いながら、
いかに早く終えるかに集中するに違いないから。

 

私には見えていないものが、
この方には見えていて。
その結果、私では感じられない幸せと誇りを、
この方は感じることができる。

 

私は、毎日使っている道具(パソコン)に、
こんなに愛着を感じているだろうか?

 

「あれもしたい!」「これも欲しい」「●●に行きたい」
いろんなモノや世界を見たくなるけど、
大切なのは、何を見るかじゃなくて、「何を感じるか」か、なのだな。うん。

 

 

P.S. 同じ顔写真を見て描いても、イラストレーターさんによって、
こんなに絵が違うんですよ〜。もっと見たい方はこちらへどうぞ。
100の顔を持つ女



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